大切なものを喪って

天体写真の撮影機材を処分し娘のように可愛がってきたはなちゃんを喪って暫くは何をするのも虚しく感じました。

それより二年前に父を亡くしていましたが、その時よりも精神的なダメージは大きかったように思います。

天体写真機材を処分したことは今も時々後悔することはありますが、それよりも止めて正解だったと思うことの方が圧倒的に多いです。

趣味にそういう考えを当てはめるのはナンセンスかもしれませんがコスパ・タイパという観点ではダントツに正解でした。

コスパという点ではやがてそうとも限らないという現実に直面するのですがそれは後述することにします。

 

はなちゃんを亡くしたことは本当に堪えました。何を見てもどこへ行ってもあの子のことを思い出してしまうので昨年の今頃は現実感がありませんでした。

特にカミさんは今も事あるごとに涙を流したり声を詰まらせたりすることがあります。

 

それでも、遺された我々は生きていかなきゃなりません。ただ悲しみに暮れているだけではお空のはなちゃんが悲しむだろう。そう自分に言い聞かせて・・・

 

 

 

 

 

近況

約二年ぶりの更新です。

 

天文機材は変換リングのような細々したもの以外は赤道儀に三脚と全て処分できました。

鼻息を荒くして福島や栃木の山へ撮影に行ったことが遠い昔のようになりました。

夏に自宅の庭で惑星の撮影に親しんだものの気流の悪さと20cmという中途半端な口径の望遠鏡の性能に苦々しい思いをしたことも完全に過去のことになりました。

 

その後、私たち家族にとってとても悲しい出来事がありました。

2021年の初冬に消化器型悪性リンパ腫と診断されたミックス犬のはなちゃんが約一年の闘病の末に2023年1月3日の朝、お空へと旅立ちました。

2008年の夏に運命的な出会いによってうちの子になったはなちゃん。子どものいない私たち夫婦にとって本当の娘のように可愛がってきました。

手術で腫瘍のできた腸の一部を切除してからは抗がん剤の投与を続け22年の春には寛解と診断されたのでそのまま治るとばかり思っていました。でも現実は厳しかった。

悪性リンパ腫と診断された時点でもう長くはないということだったのです。

22年の11月になると急に歩くのがゆっくりになり、日に日に弱っていくのを見ているのが辛くて怖かった。それでも翌年の桜を一緒に見るつもりでした。でも・・・

ちょうど仕事が年末年始の休みに入った辺りから本当に急激に容態が悪化し、2023年という新しい年を迎えて間もなく、あの子は逝ってしまった。

まるでパパとママがずっと家にいる時を選んで旅立って行ったようで、私が常々言っていた「奇跡の子」だったんだなあとつくづく思います。本当に手のかからない良い子でした。

そんな子が何でこんな病気に奪い去られなければならないのか。与えていたフードが悪かったのか、何か環境が悪かったのか、私がお散歩をサボったからなのか、後悔することばかりです。

あれから一年経ってしまいました。

 

実は天文機材を処分したのには天体写真の世界に嫌気が差したからというだけではありません。

処分して得られたものをはなちゃんの高額な治療費に充てようと思ったからというのもあるのです。

はなちゃんには天体写真撮影の遠征旅行にもずいぶん付き合ってもらいました。

一番遠い所で2021年5月の浄土平だったかと。今思えばその頃には少しずつ体が蝕まれていたのかもしれません。でもあの頃は元気だったなあ。硫化水素の臭いが立ち込める中、ビジターセンター前の木道をどんどん歩いて散歩したなあ。幻日が見えたのも良い思い出。

そんなはなちゃんが病気になってかかりつけの動物病院で紹介された医療センターでの検査・手術・入院からの定期的な通院。

はなちゃんとの思い出もいっぱいある天文趣味と引き換えにはなちゃんを助けたかった。

 

でも結局両方とも失ってしまいました。

 

機材の整理

少しずつ機材の整理を始めています。

 

手始めに長らくメインの撮影鏡筒として使ってきたタカハシのFS-60CB。

 

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専用の純正レデューサーとカメラ回転装置のセットで次のオーナーさんが見つかりました。

コンパクトな鏡筒でEM-200赤道儀に載せると少々の風ではびくともしない頼もしさと

重い一眼レフを背負ってもぐらつかない丈夫な接眼部で二枚玉ながら細かいことを気にしなければ写真撮影でも十分使える名機でした。

 

手放すまでにはずいぶん葛藤しました。

「頑張って最新の天体用冷却CMOSカメラとフィルターホイール・ナローバンドフィルターを揃えて一眼レフとは違う写真を撮ろう!」

赤道儀も処分すればもっと安価な中国メーカーの赤道儀に手が届く!」などなど。

 

でも一旦気持ちが離れるともう何もかも面倒になってしまうんですよね。

機材を一式入れ替えたらまた各ソフトの設定を一からやり直さなきゃならないし

実際テスト撮影しながら調整も必要になるかもしれない・・・

満足の行く写真が撮れる頃にはもう体が動かなくなっているかもしれない・・・

それどころかまた新しい機材が出て今買った機材がもう時代遅れになる・・・

ロシアとウクライナの戦争が長引けば半導体をはじめ様々な機材の値上げに歯止めが効かなくなる・・・

そんなことを考えたらもう望遠鏡や赤道儀がガラクタの山にしか見えなくなってしまいました。

 

 

ここでいきなりモニターキャリブレーションについて(専門的な話ではない)

 

以前の記事で天体写真という趣味に立ちはだかるいくつかのハードルについて書きましたが、まだありました。

天体にしても風景や人物にしても対象に拘わらず本格的に写真をやっている人は

PCのモニターをキャリブレーションしているようです。凄く簡単に言えば色の調整。

同じ画像をいくつかの異なるPCで見たときに感じたことがある人もいると

思いますが、モニターの機種ごとに微妙に色が違うことがあります。

また同じモニターでも長く使い続けていることにより色味や明るさが変わってしまうそうです。

ずっと同じモニターで画像処理しているといつの間にか本当の色がわからなくなって

いる恐れもあるんですよね。

※気にならない人はそれでも良いと思います。いくら経時変化で色が変わると言っても

白が黒に、赤が青になるわけでもないので。

こうした個体差や経時変化を補正しプリントした時などに正確な色を再現させるために必要な調整がモニターキャリブレーションであり、特にフォトコンに応募する場合には必須なようです。

 

私が知らなかっただけなのかもしれませんが、天体写真にある程度深入りしてから

そういう調整が必要だということを知りました。

 

こういう情報って何故いつも後から出てくるんでしょうね?

そんなに必要ならキャリブレーションの機材一式をPC或いはモニターの標準装備にすればいいのに。まあパソコンの使い道は実に様々ですから基本的なRGBがそれなりに見えていれば普通はキャリブレーションなんて要らないんですけどね。

 

モニターキャリブレーションにはハードウェアキャリブレーション

ソフトウェアキャリブレーションの二種類ありますがここでは詳述しません。

偉そうに解説するほどの知識も無いですし。

とにかくパソコン以外にまた余分にお金が掛かるわけです。

 

こうなってくると撮影用・画像処理用としてそれぞれ最低2台はPCを揃えるとして、キャリブレーション用のセンサーなどの機材は一台あれば使い回しできるとしても

総合的な「カラーマネジメントツール」となると10万円前後にもなります。

アホかと。将来的にフォトコン出品を意識してプリンターも揃えるとなると

PC関係だけで100万円は超えてしまいます。凄いですね。

天文雑誌のフォトコン常連の皆さんなどは物凄い投資をしているわけです。

とても付いていけません。

 

こんなカネの掛かる趣味からは逃げるのが一番!!

一定の財力が無きゃどうにもならないというのは、ある意味わかり易くて良いです。

嗚呼、格差社会

 

そんなわけで機材整理の第一弾としてFS-60CBを放出したことを報告させて頂きました。

 

パソコン初期化

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天体写真撮影をする予定が無くなり暫くパソコンが必要な作業も無いのでこの機会を利用して初期化しました。
もちろん機能的に何も問題が無ければ初期化なんてする必要はありません。問題があったからです。
一年ほど前から例の更新プログラムのインストールが失敗するという事案が続き、ネットで拾った対処法を自分なりに試し不要と思われたファイルやプログラム?を削除しているうちにいくつかの機能が失われてしまいました。

1.ControlCenterというパソコンの状態をモニターするアプリが消えてしまった

2.Raw形式の画像のサムネイルが表示されなくなった

どちらの機能とも「無くても良い」ですが2のサムネイルは何の画像かを確認するにはあった方が作業が早いです。
基本的にRaw画像は特定のアプリでしかサポートされていないためWindows標準の画像アプリでは開けないのですが、サムネイルでなら確認はできることになっているんです。それが一連の更新プログラムインストールエラーによって非表示になってしまった。
最終的にこれらの不具合についてMicrosoftのサポートに直接問い合わせたところ初期化を薦められたという次第です。

しかし初期化というのはIT音痴の私にとっては途方もない作業に思えてずっと避けてきました。
当時はまだ天体写真をやる気に満ちていたので初期化によって撮影に関係するアプリを再インストールしたり再設定しなければならなくなると予想したからです。これはいくら事前にバックアップを取ったとしても完璧にサポートできる保証はありません。

まあそんなわけで初期化チャンスは突然訪れたのです。

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バックアップを作成するにも10時間くらい掛かりました。

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実は最初に作成したバックアップはシステムイメージと言ってその時点でのディスクをそっくりコピーしたような形で、不具合もそのままバックアップされてしまうんです。だからこれで初期化したパソコンを復元すると不具合も再現されてしまうというややこしいことが発覚し、バックアップを作り直して再び初期化したんです。
こんなこと、撮影予定があったら私はたぶん発狂してました(笑)

こういうことからもパソコンはできれば同じくらいのスペックのものが2~3台はあった方が良いですね。天文関係の他の方々のブログなどを拝見すると複数お使いの場合が多いように感じます。
でも実はこれ、とても重要なことです。


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初期化してすっきりしたデスクトップ画面。

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ControlCenterもちゃんと起動します。


あまり使わなくなったWindowsメールはアカウントの再設定が必要でしたが何故か設定画面を表示させても入力可能な状態にならず次に進めません。
こういうのがMicrosoftの不親切で嫌いなところです(※個人の感想)。
しょうがないのでメールはThunderbirdを導入しました。

他のアプリもバックアップから復元したものでも起動すると変なエラーメッセージが出て使えなかったりで結局再インストールするものが多かったです。

とにかくこれでパソコンが若返った気分です。

ちなみにバックアップはパソコンが正常に動作している時に小まめに取っておくようにしましょう。
いつ何が起こるかわかりませんよ。

心がリセットされていく

様々な理由で趣味から離れていると心がリセットされるっていうのでしょうか、あんなに熱心だったのに物凄くどうでも良いものに感じてくるから人間というのは不思議です。
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何かテストでもしようと思って室内で組んでおいた赤道儀と三脚はすっかり埃を被っています。

この冬は特に寒いと感じます。自分が年を取ったからというだけでなくこの冬の寒さは厳しいようで、昨年末にレナード彗星を撮影して見事に風邪をひいて以来、外に望遠鏡を設置するなんて恐ろしくてできません。例の流行り病にすっかりナーバスになっているということは認めます。
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この思ったよりも長い長いトンネルはいつ頃出口が見えてくるのか未だに見当も付きませんが、皆さんもくれぐれもお気をつけください。

天体写真という趣味に立ちはだかるいくつかのハードル

今回の記事は写真がひとつもありません。

 

デジタルモノを扱う以上はIT関係にも多少は首を突っ込まないとどうにもならないということをこの十年で学びました。

(それでも私は今の若い人に比べたら化石みたいな存在なんだろうなと思っています)

天体写真で捉える太陽系以外の天体ってとんでもなく遠いところから届いた光ということは皆さんもある程度はご存じかと思います。

何十万何百万光年とかそんなのばっかり。そういう太古の光を可能な限り最新の技術で捉えようというのがデジタル天体写真撮影です。

天体望遠鏡本体はアナログな機構のモノですがそれに装着する様々な機材は基本的にパソコンとそれにインストールされた各種ソフトで制御するものばかりです。だからこそ昔の手動ガイド・銀塩フィルムの時代とは全く違うほぼ全自動の撮影が実現したわけで、撮影そのものは各種機材・ソフトの設定が間違っていなければとても楽にできるのです。何なら遠征先の車の中で寝袋に入ってぬくぬくと朝まで爆睡していても問題ありません。

そんな「完璧な撮影」を実現するにはまず撮影に入るかなり前の段階で周到な準備が必要です。

 

天体写真撮影に立ちはだかるハードル

 

1.ITに関する知識

最近では望遠鏡一式とパソコンやスマートフォンなどの端末を無線LANで接続するデバイスが出回っていて自宅の庭に設置した望遠鏡を遠隔操作したり撮影した画像を確認したりといったことが車の中や部屋で快適にできるようになりました。望遠鏡などの機材を設置したら極寒の真冬の夜中に悴んだ手で冷えきった機材を弄らなくても良いのです。こうしたデバイスを導入するには多少の知識はあった方が良いです。詳しいことは他の方の記事を参考にすることをお勧めします。

また撮影や画像処理にパソコンを使う以上はどうしてもトラブルに見舞われることがあります。特にWindows搭載のパソコンは更新プログラムのインストールという有り難迷惑?な送り付け詐欺まがいの事象(個人の感想です)が避けて通れません。

この更新プログラムにより事前にインストールしてあった天体撮影関連アプリに不具合が生じたことがありました。このような事態にもある程度の知識があればすぐに対処できます。

更に様々な原因で更新プログラムのインストール自体に失敗することもありいつまでもインストールを要求するメッセージが表示されるという煩わしい現象が続きます。こうなると一度Windowsを初期化しなければならず、やれバックアップだやれ復元だと非常に面倒なことになります。バックアップ・初期化というだけで私のようなIT音痴はただただ憂鬱でイライラするのである程度の知識があれば怖いもの無しになれるのかもしれません。

またメモリ確保の為にRAMディスクを作成したことがありましたが、ある日惑星の撮影をしている途中に撮像ソフトの不具合でパソコンを再起動したらRAMディスクに保存したそれまでの撮影動画が全て消去されていたという出来事がありました。

この日はそれまでにない最高のシーイングだったので画像処理の結果にとても期待していましたがそれが全部パーです。いい年をして親が亡くなった時よりも泣きました。

このような痛い経験からRAMディスクなど信じてはいけないという知識が増えました。

 

2.複数台のパソコン

上記のようなトラブルに見舞われると初期化・復元で数時間から10時間近い膨大な時間を要します(パソコンの容量による)。当然その間は撮影も画像処理もできません。

もし今夜撮影するぞと意気込んでいて突然パソコンが不具合に見舞われたらどうでしょう?まだ自宅にいるのであれば初期化以外の対処もあるかもしれませんがこれが遠征先だったらもうその日の撮影は泣く泣く諦めるしかありません。

そんな時の為に撮影用のパソコンは最低2台はあると安心です。

そして前にも書きましたが画像処理用と撮影用に分けてそれぞれで最低2台ずつあった方がより安心です。全部を1台で済まそうとするのはトラブル時のことを考えると非常に危険です。私のように失敗します。

また可能な限り大容量の外付け記憶媒体も用意した方が良いです。できればSSDです。

 

3.体力

意外に思う方もいらっしゃるかもしれませんがこの趣味は案外体力勝負です。

望遠鏡が大型になれば架台や三脚・ピラーなどもより重量級になりますしディープサイクルバッテリー(最近はあまり使う人もいないと思いますが)などは一個で30kgくらいあります。鏡筒も口径25cmを超えると重量が20kgを超えるものもあり組み立て・分解には落下破損等の危険も伴います。普段あまり運動しない中高年の方は腰や膝など傷めないよう細心の注意が必要です。

カメラと三脚とポータブルバッテリーを持って車では行けない山道を歩いて登り天の川を撮影することもあるかもしれません。こうなると最早登山と言った方が良さそうな装備も必要ですし相当な体力も必要です。

またこの趣味を実行する時間帯の大部分は夜です。撮影中は寝ていても大丈夫ですが

折角暗い場所へ遠征したのなら一晩中天の川を眺めたりすることもあるでしょう。

当然徹夜となるわけです。次の日が休みならそれでもまだ良いでしょうがお仕事や何か他の用事があったりするとかなり影響する場合もあります。

ですから重いものを持ち運ぶ筋力と徹夜にも耐えられる寝不足耐性。これは必須と言えます。最近の私は一度遠征に行くとその後1週間は疲労が回復しません。悲しくなります。

 

4.年齢

何事も若いうちに始めた方がいろいろとメリットがあります。身も蓋もない言い方ですがこの趣味もそうだと痛感します。上に述べたIT知識も若い方が吸収が速いし体力的な面でも若さは正義です。2日くらい寝なくてもへっちゃらという無限の体力が懐かしい。望遠鏡の設置で腰痛なんて別世界の出来事でしょう。

画像処理のテクニックも若ければ若いほど有利だと私は思います。覚えるのが速いですから。

 

5.画像処理

折角撮影した天体画像も画像処理(現像と呼ぶ場合もある)を施さないと作品になりません。

しかしこれが大きな負担となり挫折している人もいるとかいないとか。

よく言われるのは「画像処理に正解はない」ということですがある程度は決まった工程はあるように思います。

画像処理の目的とは「ノイズでザラザラの元画像を滑らかにして淡い対象を強調してはっきり見えるようにして美しく仕上げる」ということかと思います。

よく合成写真とかお絵描きなどと揶揄する向きも見られますが、元々そこに無いものを付け足すようなことはしないのが暗黙のルールです。

ただ肉眼では見えないものを見えるようにするだけなのです。そのように仕上げていく過程で軽減したはずのノイズが逆に増大してしまい見るも無残な出来になったり黒に近い背景のはずなのに緑や赤のムラが出てしまったりと一筋縄では行かないのが天体画像処理です。

こうした画像処理には専用のソフトやPhotoshopを使うことが鉄板となっていていずれも有料のソフトです。無料のGIMPPhotoshopと似たようなテクニックが使えると何かで読んだことはありますが天体画像に使ったという事例は殆ど見聞きしたことがありません。

最近ではPixInsightという元々海外のマニアが多く使っていたソフトが日本国内でもユーザーが増えてきて画像処理のレベルが上がってきている印象ですが、逆に写真の仕上がりに個性が無くなってきていると思わなくもありません(個人の感想です)。

 

いずれにしても画像処理は初めて取り組んだ人にはチンプンカンプンかもしれません。天文の知識に拘わらず趣味や仕事でCGをやっている人の方がもしかしたら上達が早いのかな?などと勝手に思っています。

 

6.欲望

残念ながら人間の欲望はエスカレートします。どんなに自分の入る範囲を設定して始めたとしても、機材・画像処理にいずれ不満を感じます。

ずっと「この程度でいいや」と思っていたらつまらなくなって気付いたらすっかり撮影しなくなっていたなんてことになりそうです。

もっとノイズを減らしたい、もっと星の色を鮮やかにしたい、もっと星雲の細部を表現したい・・・

自分の経済力と相談しながら妥協しなければならないのですが。

 

7.経済力

最後の条件としてこれを挙げます。あまり言いたくはないのですが実はこれが最も重要ではないのかとも思います。

例え望遠鏡や赤道儀を使わなくともハイエンドモデルの一眼レフカメラだけで数十万円、高性能のカメラレンズ一本でやはり数十万円数百万円するような世界です。

しかし高ければ良いカメラとは限らないのが天体写真を撮る上ではポイントです。

天体撮影には高速連写機能や高速AF、手振れ補正機能は殆ど必要ありません。そのためそうした機能が高度化された機種は必要ないのです。天体撮影に必要な機能はバルブなどの長時間露光とISO12800程度までの感度設定、それにノイズの少なさです。

基本的に天体写真は夜、真っ暗な空を背景にした輝度の低い写真なので通常の昼間の写真に比べてノイズが目立ちやすいものになります。デジタルカメラの性能の大部分は搭載されたCMOSセンサーの性能に依存していてノイズの多い少ないもCMOSセンサーの機種によって異なります。とはいえどのカメラにどんなCMOSセンサーが搭載されていてそれがどんな性能なのかをいちいち調べていたらいつまで経っても機種選定が終わりません。

天体写真の投稿サイトや天文雑誌のフォトコンテストの入賞作品を見るとどんなカメラが多く使われているか大まかな傾向が掴めると思いますので参考にしてみると良いと思います。決してバカ高いカメラが使われているとは限りませんがパソコンと同様に最低でもカメラボディだけで20万円前後から(フルサイズの場合)のものが人気があります。

それでもパソコンと合わせればそれぞれ1台ずつ購入するだけでも40万円以上の出費は覚悟しなければなりません。

 

天体望遠鏡はレンズ性能や口径に比例して値段が上がる傾向があります。一方で同じくらいの口径でもメーカーによって値段に差があることもあります。それは接眼レンズやカメラを取り付ける部分(接眼部という)の材質や造りに大きな違いがあり安いメーカーのものは非常に弱くてガタがあり重いカメラを付けるとドローチューブが滑ってピント調整できなくなるものもあるようです。

安いモノにはそれなりの理由があるということは頭の隅に置いておくべきでしょう。望遠鏡に関しても天文雑誌のフォトコンテストなどをよく見るとどんな機種に人気があるか傾向が掴めます。またそうした情報を参考にする時には望遠鏡の焦点距離とカメラの機種の組み合わせをよく見ておくと、「この組み合わせだとこの天体はこういう画角で撮れる」ということがわかってきて自分が撮りたい対象をどのように撮るかシミュレーションになります。そうすることで購入する望遠鏡の機種がある程度絞られてくるかと思います。

 

いずれにしてもカメラや天体望遠鏡を使って星空を撮影をするということはそれなりの出費を覚悟しなければなりません。

最近では中国や台湾のメーカーが台頭してきて日本国内のメーカーより安い天体望遠鏡や天体撮影に特化したCMOSカメラが多数販売されています。ひと昔前までは中国製というと安かろう悪かろうでしたがこの分野に関しては特に近年違ってきています。日本を含めた世界中の天体撮影マニアが当たり前のように使う時代になっています。

できるだけ出費を抑えたいというのであればこのような中国・台湾メーカーの望遠鏡やカメラを検討するのも大いにありです。

 

 

私は天体写真の前にずいぶん長いこと釣りを趣味にしていましたが、天体写真に鞍替えしてから様々なアイテムの単価が釣りとはあまりにも違うことに愕然としました。金銭感覚がまるで変ってしまい家族にドン引きされました。

天体写真は天気が悪ければどうしようもありません。その点釣りは雨でも風でも昼でも夜でもできます。天体望遠鏡稼働率なんて年間何日でしょうか。その点でも非常にコスパの悪い趣味です。

 

これからこの趣味を始める人はどうか家族とのバランスも考えて健全に進めていってほしいと願います。

 

 

 

 

 

 

 

 

天体写真のカテゴリーと難易度

天体写真と一口に言ってもいくつかのカテゴリーに分けられます。
これをある程度明確に把握しておかないと折角望遠鏡やカメラを購入しても撮りたい対象と機材がチグハグになってしまい思うような写真が撮れません。
また同じ対象でもどのように撮影するかで必要な機材が全く違うものになることもあるのでネット検索していろいろな画像を参考に自分が撮りたい写真のイメージを強く持っておくことが重要です。

例えば月。まだ低空の月を手前の山や町並みと一緒に撮影したい(星景写真の一種)のであれば一眼レフカメラやコンパクトデジカメ、或いはスマートフォンでも撮影できます。
ところがこの月を画面いっぱいに全体像が収まるくらいのズーム撮影するには超望遠ズーム機能付きのコンパクトデジカメの手持ちで狙う人もいますが超望遠レンズを付けた一眼レフカメラで狙うのが一般的かもしれません。
更にズームしてクレーターや月面Xを大写しにするとなると焦点距離の長い天体望遠鏡を更にバローレンズなどで拡大する必要があり当然手ブレがひどいので三脚と経緯台という架台が最低限必要となります。当然ながら撮影の難度も格段に上がります。

そしてそして、銀塩フィルムでの写真に拘っているというのでなければカメラはデジタルですから撮影したものを作品にするにはパソコンが必須です。実はこのパソコンも高いハードルのひとつで、例えば日没後から日の出直前までのタイムラプスを作るとなるとスペックの低いパソコンではフリーズしたりシャットダウンしたりしてしまいます。最低でもcorei7、グラボ搭載で32GBのメモリは必須です。下衆な話、値段にすると安くても20万円台以上のものが必要です。
残念なことに私は天体写真を始めた当初パソコンなんて何でもいいだろと全くの無頓着で量販店の4万円程度の展示処分品を購入してしまいました。
とある望遠鏡のフォーカサーソフトを立ち上げるとフリーズしてしまい撮影テストすらまともにできませんでした。
それでもそのソフト以外は何とか動いてくれたので数年間はそのパソコンを使いましたが画像処理はもう少しスペックが上のデスクトップで行っていました。



天体写真のカテゴリー(※個人の見解も含みます)

1.星景写真 
天の川写真が最近は人気。現在はスマートフォンでも撮影可(写りはともかく)。基本的にカメラと三脚とリモコンがあれば撮影可能。撮影方法は赤道儀による追尾(ガイド)撮影に対して固定撮影と呼ばれることが多い。タイムラプス撮影もこのカテゴリーに含まれる(※個人の見解です)。
固定撮影ではパソコンは不要。とりあえず最低限カメラ(バルブまたは10秒以上のシャッタースピードが設定できる機種)と三脚さえあれば何とか撮れる。広角寄りのレンズがあればすぐにでも始められる。
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2.星野写真 
赤道儀という架台で地球の自転に伴って見かけ上移動していく天体を追尾、カメラを長時間露光することで肉眼では見えない星雲などのいわゆるDSO(DeepSkyObject)を撮影する。一度の撮影で様々なソフトウェアを運用するのでトラブルも多く急に難度が上がる。望遠鏡・赤道儀・カメラ・オートガイダーなどをパソコンで制御する。各種ソフトを同時運用するのでパソコンはそれなりのスペックが必要。ちなみにオートガイドソフトや星図ソフトなどフリーのものもあるという点は非常に有難い。
それでも慣れれば撮影そのものはある程度成功する確率が上がる。このカテゴリーで多くの人を悩ませまた楽しませているのは撮影した後の画像処理である。
もちろん良質の写真に仕上げるにはできる限り暗い空・暗い環境で撮影することが大前提である。そのためDSOを撮影するのが専門の人は天気が良くて暗い場所を求めて片道何百キロも車を走らせることもある。また最近では空の条件の良い遠隔地にリモート天文台を設置して自宅から望遠鏡などの機材を遠隔操作して撮影するというプロみたいなアマチュアの人もいるらしい。
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3.惑星・月の拡大撮影
できる限り大口径長焦点の望遠鏡を用いて更にバローレンズやアイピースで拡大(焦点距離を延長)して惑星や月をズーム撮影する。最近では大口径長焦点でもコンパクトなカセグレン系の望遠鏡が比較的安価なので人気がある。動画撮影が基本なので大容量で高速処理のパソコンが必須。赤道儀は積載荷重15kg程度は必要。
また日本は特に冬季になるとジェット気流が上空を通るためシーイングが悪い日が多く惑星撮影には向かない。高精細な惑星像を得るには夏~秋がベストシーズン。
また惑星撮影は星野写真撮影とは違い特に暗い空・暗い環境に拘る必要はなく、大都市の中心部でも目の前で街灯がギラギラ光っていてもほぼ問題ない。わざわざ山の上や人里離れた高原などへ遠征しなくても自宅から気軽に撮れる・楽しめるというのは気分的にとても楽。但し土星木星、最接近時の火星など表面の複雑な模様を捉えるには口径の大きい望遠鏡ほど有利になり(口径30cm以上)、また望遠鏡の価格も口径30cmあたりからケタが変わってくるので要注意。
そして望遠鏡の口径が大きくなると重量も相当なものになってくるので赤道儀もそれなりの大きさのものが要求され望遠鏡と赤道儀だけで普通自動車の新車が買える価格になる(望遠鏡のタイプにもよる)。
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以上のように趣味としての天体写真撮影は大きく3つのカテゴリーに分けられるかと思います。
難易度は当然ながら1が最も簡単で準備すべき機材もとても少なくてシンプル。
一眼レフカメラAPS-Cサイズのものなら手頃な価格で入手できます。
もしあなたが何でもいいからとにかく星空を撮ってみたいと思うならこの固定撮影による星景写真から始めるのが良いと思います。
最近のスマートフォンは超高感度に設定でき10秒以上の長時間露光もできる機種もありますから三脚に固定して天の川を撮ることもできるはずです。

問題は2・3のカテゴリーです。難度はもしかしたら2の方が上かもしれません。赤道儀と望遠鏡とカメラとパソコンだけでは撮れない(工夫すれば撮れないこともない)からです。そして画像処理がとにかく大変(※個人の感想)。3の惑星・月も画像処理は必須ですが星野写真と比べると処理工程はそれほど複雑ではないように思えます。よほどピントを外した場合でない限り写真の出来の悪さはその時の気流のせいにできるし(※個人の感想)。

私は天体写真に10年取り組んできましたがDSOの画像処理はついに自信を持ってこれだ!と言えるまでにはなれませんでした。もちろん個人差は大いにあります。それがなおさら敗北感みたいな感情を増幅させるのです。悲しいです。